京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)23号 判決 1985年7月17日
京都市南区西九条東島町六〇番地一四
原告
小林勇
訴訟代理人弁護士
高田良爾
京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地
被告
下京税務署長
小幡隆
指定代理人検事
高田敏明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
被告が、昭和五七年一月一九日付で原告に対してした、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分(以下本件係争年分という)の所得税更正処分(但し、昭和五五年分については、裁決によつて一部取り消された後のもの。以下本件処分という)のうち、昭和五三年分の総所得金額が一四七万〇四三四円を、昭和五四年分の総所得金額が一三七万一一〇三円を、昭和五五年分の総所得金額が二三六万一〇三〇円を、いずれも超える部分を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決。
二 被告
主文同旨の判決。
第二当事者の主張
一 本件請求の原因事実
1 原告は、肩書地でタイル工事業を営む白色申告納税者である。
2 原告は、本系係争年分の所得税の確定申告をしたところ、被告は、昭和五七年一月一九日、原告に対し、所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分した。
そこで、原告は、被告に対する異議申立て及び国税不服審判所長に対する審査請求をしたが、その経緯と内容は、別紙1記載のとおりである。
3 しかし、本件の処分には、次の違法がある。
(一) 被告の部下職員は、原告の要求による第三者の立会いを不当に拒否したうえ、原告に対する税務調査を行わずに、所得税の更正処分をした。
(二) 被告は、原告の本件係争年分の総所得金額を過大に認定した。
4 結論
原告は、本件処分のうち、請求の趣旨第一項記載の各金額を超える部分の取消しを求める。
二 被告の答弁
本件請求の原因事実中、1、2の各事実は認め、3の主張は争う。
三 被告の主張
(本件税務調査について)
原告が被告に提出した本件係争年分の所得税の確定申告書の記載が不十分であつたため、被告は、昭和五六年九月五日以降再三にわたり部下職員を原告方に臨場させた。
被告の部下職員は、本件税務調査を行うため、原告に対し、事業所得の基礎となる帳簿、資料の指示や事業内容の説明を求めたが、原告は、これを拒否した。
そこで、被告は、やむをえず反面調査のうえ、所得税更正処分をしたのである。
(本件処分の正当性について)
1 原告の本件係争年分の事業所得金額は、次のとおりであり(その計算方法については、別紙2参照)、本件処分は、それを下回るから、適法である。
年分 被告主張額(円) 本件処分額(円)
昭和五三 二三九万一一八三 二〇五万九六四七
昭和五四 五二五万二二八六 四六〇万三二八六
昭和五五 六八三万九五四二 五三七万八二四九
以下、この金額の算出根拠について、分説する。
2 別紙2の<2>売上原価について
<2>売上原価の内訳は、別紙3記載のとおりである。
3 別紙2の<1>売上金額について
(一) 同業者の売上原価率の算出
被告は、上京、中京、下京、左京、右京、東山及び伏見の各税務署管内に事業所を有している青色申告納税者のうちから、次の条件を満たす者一〇件を選出した。
(1) タイル工事業を営んでおり、それ以外の事業を兼業していない者であること。
(2) 年間を通じて継続して事業を営んでいる者であること。
(3) 本件係争年分の課税処分につき、不服申立又は訴訟を提起していない者であること。
(4) 本件係争年分の年間売上原価が二〇〇万円から一七〇〇万円までの範囲内にある者であること。
なお、右売上原価の範囲は、原告の売上原価を基準とし、上限を昭和五五年分の売上原価一一二八万五五〇五円の約一五〇パーセント、下限を昭和五三年分の売上原価四〇六万一〇五五円の約五〇パーセントとしたものである。
これらの同業者は、原告と営業施設、営業形態、営業規模等の点において類似性があるから、原告の所得を推計する基礎として適当であり、また、右同業者は青色申告納税者であるから、その金額等の算出根拠となる資料はすべて正確である。
このようにして選出した同業者一〇件を整理したものが別紙4の1ないし3であり、同業者の平均売上原価率(売上原価の売上金額に占める割合)は、次のとおりである(別紙2の<3>原価率)。
年分 同業者平均売上原価率(%)
昭和五三 三五・九二
昭和五四 三三・四六
昭和五五 三三・四三
(二) 原告の本件係争年分の売上金額は、前記<2>売上原価をこの<3>同業者の平均売上原価率で除して算出した。
そうすると、原告の売上金額は、昭和五三年分が一一三〇万五八三二円、昭和五四年分が二五八二万四三六三円、昭和五五年分が三三七五万八六一五となる。
4 別紙2の<5>算出所得金額について
(一) 同業者の所得率の算出
別紙4の1ないし3記載の同業者の算出所得率(売上金額から売上原価、給料賃金、外注費及び一般経費を差し引いた金額の売上金額に占める割合、別紙4の1ないし3の<9>)の平均値は、次のとおりである。
年分 同業者の平均算出所得率(%)
昭和五三 二一・一五
昭和五四 二二・三七
昭和五五 二二・〇五
(二) 原告の本件係争年分の算出所得金額は、前記<1>売上金額にこの<4>同業者の平均算出所得率を乗じて算出した。
そうすると、原告の算出所得金額は、昭和五三年分が二三九万一一八三円、昭和五四年分が五七七万六九一〇円、昭和五五年分が七四四万三七七四円となる。
5 別紙2の<6>特別経費について
原告は、自宅を新築するに当たり、訴外株式会社関西相互銀行及び訴外伏見信用金庫から金員を借り入れ、昭和五四、五五年に利息を支払つたが、このうちの三〇パーセントを事業用割合とするのが相当である。
そこで、被告は、原告の算出所得金額から、昭和五四年分については一二万四六二四円を、昭和五五年分については二〇万四二三二円を、それぞれ特別経費(支払利息)として控除したが、その計算は、別紙5記載のとおりである。
6 別紙2の<7>事業専従者控除額について
事業専従者控除額は、原告の本件係争年分の所得税の確定申告書に記載された金額である。
四 原告の反論
(本件税務調査について)
原告は、税務調査に協力するつもりであつたが、被告の部下職員が第三者の立会いをかたくなに拒否して、本件税務調査を行わなかつたのである。
(本件処分の正当性について)
1 別紙2の<7>事業専従者控除額、別紙3の仕入先及び金額は認める。
2 別紙2の<3>原価率
(一) 原告は、タイル工事業者であり、このような営業では、販売業と異なり、仕入金額と売上金額との間に単純な対応関係がない。原告のような業者の売上原価は、仕入金額、人件費及び外注費によつて構成されるとしなければならない。そこで、同業者の売上原価率の算出にあたつても、仕入金額、人件費及び外注費の合計を売上原価として計算すべきであるにもかかわらず、被告は、仕入金額だけを売上原価としており、同業者の原価率の計算方法を誤つている。
(二) 被告の選出した同業者のうち、昭和五三年分のC、E、昭和五四年分のE、H、昭和五五年分のE、Hの原価率は、他の同業者の原価率と比較して異常に低い。したがつて、同業者の平均原価率の算出にあたつては、これらの者を除外して計算すべきである。
3 別紙2の<4>同業者所得率
被告は、同業者の所得率の算出にあたり、給料賃金等の人件費から青色専従者に支払つた給与を除外している。しかし、青色申告納税者が支払う専従者給与も売上げの中に占める労務の対価であることでは雇人費と変わりがないから、同業者の所得率を算出するためには、青色専従者給与(配偶者を含む)をも人件費(給与賃金)に含めて計算すべきであり、専従者給与を除外した所得率は不正確である。
4 別紙2の<6>特別経費
原告が株式会社関西相互銀行及び伏見信用金庫に支払つた利息のうち、事業用割合が三〇パーセントであることは認めるが、特別経費(支払利息)として控除さるべき額は、昭和五四年分が一八万六四〇五円、昭和五五年分が三四万三九八〇円である。
五 被告の再反論
1 原告は、原告の営むタイル工事業では、仕入金額、人件費及び外注費を売上原価として売上金額を推計すべきであると主張する。
しかし、原告は、本件税務調査に終始非協力的であり、被告の部下職員に対し、帳簿書類の提示や事業内容の説明を一切しなかつた。被告は、反面調査により、別紙2の<2>売上原価(仕入金額)を把握することができたのである。
このような経緯に照らすと、原告の主張は、原告自身の人件費、外注費には全く口を閉ざし、一切不明にしたうえで、売上原価は仕入金額、人件費及び外注費によつて構成されるから、これらにより売上金額を推計すべきであるとする身勝手なもので、課税逃れの強弁にほかならない。
2 原告は、本件の同業者中に、他の同業者と比較して異常に原価率が低い者があるから、これらの者を除外して同業者の平均原価率を算出すべきであると主張するが、同業者間に存在する営業条件の差異等の個別的特性は、平均値算出の過程で捨象されるのであるから、被告の行つた単純平均による計算方法は、経験則上合理的である。原告主張の方法は、却つて各年分ごとに原価率の低い同業者を選んで、これを除去してしまうのであるから、思惑や恣意が介入し、同業者の平均値としての意味を失わせてしまうのである。
3 原告は、青色申告納税者が支払う専従者給与も人件費に含めて、同業者の所得率を算出すべきであると主張する。
しかし、原告のような白色申告納税者の場合には、専従者控除額は四〇万円が限度とされているのであり、原告主張のように専従者給与を全額人件費に算入して所得率を計算すれば青色申告者のみに認められる専従者給与額の存在が有名無実となるばかりでなく、右の控除限度額をも事実上撤廃することとなり、不当である。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件請求の原因事実中1、2の各事実は、当事者間に争いがない。
二 本件税務調査について判断する。
1 証人園田孝幸の証言及び原告本人尋問の結果によると、被告の部下職員訴外園田孝幸は、昭和五六年八月ころから、数回にわたつて、本件係争年分の税務調査を行うため、原告方へ臨場し、原告と三回面接したこと、このうち一回は、原告に来客があつて調査ができず、他の二回は、原告が、下京民主商工会会員を税務調査に立ち合わせることを要求したこと、園田孝幸は、その立会を認めなかつたため、原告は、押し問答を続けるだけで調査に応じようとしなかつたこと、園田孝幸は、それ以上税務調査を行うことができず、やむなく原告に対する本件税務調査を打ち切つたこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。
2 ところで、税務調査に第三者の立会いを許すか否かは、権限ある税務職員の裁量に委ねられているというべきところ、園田孝幸が、下京民主商工会会員の立会いを認めなかつたことについて、その裁量権濫用の事実が認められる証拠のない本件では、園田孝幸の右措置を目して直ちに違法とするわけにはいかない。したがつて、園田孝幸が、原告からなおもその立会いを求められたことを理由に、本件税務調査を打ち切つたことには、何ら非難されるべき点はないとしなければならない。
3 そうすると、本件税務調査には違法がないから、原告のこの主張は、採用しない。
三 本件処分の正当性について判断する。
1 売上原価
別紙3記載の仕入先及び金額は、当事者間に争いがない。なお、売上原価の構成要素については、後述する。
2 売上金額
(一) その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから成立が推定される乙第五ないし第一二号証及び弁論の全趣旨によると、被告は、被告主張の方法や基準で別紙4の1ないし3記載のAないしJの一〇件の同業者を押出し、これを整理したものが、別紙4の1ないし3記載のとおりであることが認められ、この認定に反する証拠はない。
右認定事業によると、これらの同業者は、原告と営業地域、営業形態、営業規模の類似性があるうえ、青色申告納税者であるから、その計算の基礎となる資料は正確であり、これらの同業者の原価率を基礎に原告の売上金額を推計することは合理性があるとしなければならない。
(二) そして、これらの同業者の本件係争年分の売上原価率(仕入金額の売上金額に占める割合)を算出すると、別紙6の1ないし3の<3>原価率記載の数値になり、その平均値は、昭和五三年分が三五・九三パーセント、昭和五四年分が三三・四六パーセント、昭和五五年分が三三・四三パーセントとなる(なお、当裁判所は、小数点以下三位を切り上げ、原告に有利に計算した)。
(三) これに対し、原告は、原告のようなタイル工事業では、売上原価が、仕入金額、人件費及び外注費によつて構成されるから、これと異なる被告の原価率の計算方法は誤つていると主張する。
確かに、原告のようなタイル工事業者の売上原価は、原告主張のとおり、仕入金額、人件費及び外注費によつて構成されるとするのが相当であるが、本件の場合、原告自身が人件費や外注費の実額を主張立証しないから、そのような計算方法を採ることは、不可能である。もつとも、原告の人件費や外注費の推計計算は可能であるが、そうすると、ここで推計した人件費や外注費を売上原価に算入し、更にこの売上原価に同業者率を適用して、売上金額や所得金額を算出するという二重、三重の推計をすることを余儀なくされ、これでは、原告の所得金額の計算が実体とかけはなれる虞れが生じるのである。
したがつて、仕入金額をもつて売上原価とするほかはなく、原告のこの主張は、採用しない。
(四) 原告は、さらに、同業者中に売上原価率が異常に低い者があるから、これらの者は、計算上除外されるべきであると主張する。
しかし、同業者としての適否は、単に売上原価率のみを比較するのではなく、収益対応の原則上、すべての費用等を総合考慮して判断すべきである。そこで、各同業者の人件費、外注費を考慮したうえで、一応の所得率を算出すると別紙6の1ないし3記載のとおりとなり、原告指摘の同業者は、他と比べて大差ないばかりでなく、平均値を下回り、原告にとつて有利な者も含まれているのである。
したがつて、原告のこの主張は、採用しない。
(五) 以上の次第で、当裁判所は、仕入金額を売上原価として、これを本件の一〇件の同業者の平均売上原価率で除すことによつて、原告の本件係争年分の売上金額を算出することにする。そして、その金額が、別紙7の<1>売上金額に記載したとおり昭和五三年分が一一三〇万二六八五円、昭和五四年分が二五八二万四三六三円、昭和五五年分が三三七五万八六一五円となることは、計算上明らかである。
3 算出所得金額
(一) 被告は、同業者の売上金額から売上原価、人件費、外注費及び一般経費を控除して算出所得金額を算出し、この算出所得金額の売上金額に占める割合(算出所得率)の平均値を原告の売上金額に乗じて、原告の本件係争年分の算出所得金額を算出している。
しかし、この方法は、精密さを欠くから採用しない。
そこで、当裁判所は、同業者の売上金額から売上原価及び一般経費を控除した金額の売上金額に占める割合を算出所得率とし、その平均値を売上金額に乗じて、原告の本件係争年分の算出所得金額を算出し、人件費、外注費及び支払利息は、特別経費として、この算出所得金額から控除することとする。
(二) 別紙6の1ないし3は、別紙4の1ないし3の記載を整理して計算し直したものであるが、当裁判所の計算方法による本件係争年分の同業者の平均算出所得率は、昭和五三年分が五一・四三パーセント、昭和五四年分が五三・三三パーセント、昭和五五年分が五二・七五パーセントとなる(但し、小数点以下三位を切り捨て、原告に有利に計算した)。
(三) 原告の本件係争年分の算出所得金額は、売上金額に右の同業者の平均算出所得率を、乗じて算出されるが、その金額が、別紙7の<4>算出所得金額に記載したとおり、昭和五三年分が五八一万二九七〇円、昭和五四年分が一三七七万二一三二円、昭和五五年分が一七八〇万七六六九円となることは、計算上明らかである。
4 特別経費
(一) 人件費、外注費
(1) 原告は、本件係争年分の人件費及び外注費の金額を主張立証しないから、同業者の人件費率及び外注費率の平均値を原告の売上金額に乗じて算出する。
(2) 同業者の本件係争年分の人件費率(給料賃金の売上金額に占める割合。但し、小数点以下三位を切り上げ、原告に有利に計算した)の平均値は、昭和五三年分が八・八二パーセント、昭和五四年分が一三・二二パーセント、昭和五五年分が五・一九パーセントとなる(別紙6の1ないし3記載の<7>人件費率参照)。
原告の本件係争年分の人件費は、売上金額に同業者の平均人件費率を乗じて算出されるが、その金額が、別紙7の<6>人件費に記載したとおり昭和五三年分が九九万六八九七円、昭和五四年分が三四一万三九八一円、昭和五五年分が一七五万二〇七三円となることは、計算上明らかである。
したがつて、右金額の原告の本件係争年分の人件費として控除する。
なお、原告は、青色専従者給与額を含めて、同業者の人件費率を算出すべきであると主張する。
しかし、所得税法五六条は、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む……事業所得……を生ずべき事業に従事したこと……により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る……事業所得の金額……の計算上、必要経費に算入しないものとし」ている。これが原則であるが、これには、次の例外規定がある。
まず、「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族でもつぱらその居住者の営む……事業に従事するものが……給与の支払を受けた場合には、……その居住者のその給与の支給に係る年分の……事業所得の金額……の計算上必要経費に算入」される(同法五七条一項)。
次に、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族でもつぱらその居住者の営む……事業に従するものがある場合には、その居住者のその年分の当該年分の当該事業に係る……事業所得の金額……の計算上、各事業専従者につき、次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を必要経費とみなす。一 四十万円 二 省略」(同条三項)。
そうすると、いわゆる白色申告に係る居住者が、その事業を営むについて、配偶者に給与を支給しても、それは、居住者の必要経費にはならず、申告により四〇万円の必要経費の控除が受けられるのにとどまるのに対し、青色申告に係る居住者が、その事業を営むについて、配偶者に給与を支給した場合、専従者給与額は、居住者の必要経費になるわけで、税法上、白色申告に係る居住者と、青色申告に係る居住者とは、この点で全く異つた取扱いを受ける。
そうすると、原告は、白色申告に係る納税者であるから、青色申告に係る同業者の支払つた専従者の給与を除外して所得率を計算しないと、原告が、青色申告に係る納税者と同じ扱いを受けてしまい、不合理である。原告としては、配偶者その他の親族に支払つた給与があるのであれば、必要経費として四〇万円の控除を受ける方法があるのであるから、これによつて、専従者の給与を除外して所得率を算出することと辻褄が合うのである。
このようなわけであるから、原告のこの主張は採用しない。
(3) 右人件費と同様の方法で計算すると、同業者の本件係争年分の外注費率の平均値は、昭和五三年分が二一・四七パーセント、昭和五四年分が一七・七五パーセント、昭和五五年分が二五・五二パーセントとなり)別紙6の1ないし3記載の<8>外注費率)、原告の本件係争年分の外注費が、別紙7の<7>外注費に記載したとおり昭和五三年分が二四二万六六八七円、昭和五四年分が四五八万三八二五円、昭和五五年分が八六一万五一九九円となることは、計算上明らかである。
したがつて、右金額を原告の本件係争年分の外注費として控除する。
(二) 支払利息
(1) 弁論の全趣旨によつて成立が認められる乙第二八号証によると、原告が本件係争年中に株式会社関西相互銀行京都支店に支払つた利息は、昭和五四年分が三三万六四〇〇円、昭和五五年分が五一万九四八五円であることが認められる。なお、弁論の全趣旨によつて成立が認められる甲第一、二号証は、返済予定を記載したにすぎないことは、同号証の記載から明らかであるから、前記認定に照らして、採用しない。
また、弁論の全趣旨によつて成立が認められる同第三号証によると、原告が、本件係争年中に伏見信用金庫東寺支店に支払つた利息は、昭和五四年分が七万九〇一三円、昭和五五年分が一六万一二八四円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。
(2) そして、右各利息の事業用割合が三〇パーセントであることは、当事者間に争いがない。
(3) そうすると、原告の本件係争年分の支払利息として控除されるのは、被告主張のとおり、昭和五四年分が一二万四六二四円、昭和五五年分が二〇万四二三二円になる。
5 事業専従者控除額
原告の本件係争年分の事業専従者控除額が、昭和五四、五五年分が各四〇万円であることは、当事者間に争いがない。
6 以上の認定を整理して記載したものが別紙7であり、原告の本件係争年分の事業所得金額について、当裁判所の認定額と本件処分の額とを対比すると、次のとおりである。
年分 当裁判所の認定額(円) 本件処分の額(円)
昭和五三 二三八万九三八六 二〇五万九六四七
昭和五四 五二四万九七〇二 四六〇万三二八六
昭和五五 六八三万六一六五 五三七万八二四九
そうすると、本件処分には、原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法がないことは明らかであり、原告の本件請求は、理由がないことに帰着する。
四 以上の次第で、原告の本件請求を棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 武田多喜子 裁判官 長久保尚善)
別紙1 本件課税の経緯
<省略>
別紙2 被告主張の原告の事業所得金額の計算
<省略>
別紙3 原告の売上原価の内訳(単位=円)
<省略>
別紙4の1 同業者原価率・所得率算出表
(昭和53年分)
<省略>
別紙4の2 同業者原価率・所得率算出表
(昭和54年分)
<省略>
別紙4の3 同業者原価率・所得率算出表
(昭和55年分)
<省略>
別紙5 特別経費(支払利息)の計算
<省略>
別紙6の1 同業者率の計算
昭和53年分
<省略>
別紙6の2 同業者率の計算
昭和54年分
<省略>
別紙6の3 同業者率の計算
昭和55年分
<省略>
別紙7 当裁判所の認定額
<省略>